ソフトウェア特許におけるMeans-Plus-Function (機能的)クレーム

米国特許法第 112 条は特許明細書に関する記載要件を定めており、112条(f) (Pre-AIAでは112条第6項)は「組合せに係るクレームの要素は,その構造,材料又はそれを支える作用を詳述することなく,特定の機能を遂行するための手段又は工程として記載することができ,当該クレームは,明細書に記載された対応する構造,材料又は作用及びそれらの均等物を対象としているものと解釈される」と規定している。この規定が適用されるクレーム要素はmeans-plus-function(MPF)形式と呼ばれる。

Dyfan, LLC v. Target Corp. (Fed. Cir. March 24, 2022) 事件において、連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、クレームの限定がMPF形式でと解釈される(112条(f)(Pre-AIA 112条6項)の適用がされる)ために必要な基準について判示した。

2019年2月28日、Dyfan LLC(以下「Dyfan社」)は、Target Corporation(以下「Target社」)を特許侵害で訴えた。問題となっている特許は、「System for Location Based Triggers for Mobile Devices」という名称の米国特許第9,973,899号および第10,194,292号である。これらの特許は、ユーザーの場所に基づいてユーザーにメッセージを配信するために改善されたシステムについて記載している。明細書には、特定の場所内に基づいて、ユーザーが持つ特定の関心またはニーズに合わせた情報を提供する通信システムを開示している。クレーム解釈(Claim construction)の際、Target社は、記載されたクレームのそれぞれに、means-plus-function限定として解釈されるべき限定が含まれている、そして明細書には、これらのmeans-plus-function限定に対応する構造を開示しなかったと主張した。これらの理由により、Target社は、クレームは不明確であるとして無効であると主張した。テキサス州西部地区連邦地方裁判所は、第112条6項が「code」/「application」および「system」の限定に適用されると判断した。地方裁判所は、「code」/「application」の限定について、明細書に「クレームに記載された特殊目的のコンピューター実装機能のアルゴリズム」は見当たらなかったとし、「関連するクレームは、対応する構造を開示しなかったために不明確である」と判断した。同様に、地方裁判所は、「system」の限定は「十分な構造のない純粋な機能的な言語」を引用しているため、第112条6項の対象である、そしてこれらのクレームは「対応する構造の欠如のために不明確である」と判断した。Dyfan社は、明細書にmeans-plus-function限定に対応する構造が欠いてクレームは不明確であるという、地方裁判所の判断に誤りがあると主張して上訴した。

CAFCは、means-plus-functionクレームを分析するために2-Stepプロセスを用いた。第1ステップで、裁判所は、「クレーム限定がmeans-plus-function形式で起草されているかを判断する必要がある。これにより、クレーム限定を解釈して、当業者に十分に明確な構造を暗示しているかを判断する。そしてクレーム限定が十分に明確な構造を暗示している場合、それはmeans-plus-function形式で作成されておらず、第112条6項は適用されない。ただし、裁判所がクレーム限定がmeans-plus-function形式であると結論付けた場合、第2ステップで裁判所は明細書に開示されている構造がクレームに記載されているものに対応するかどうかを判断する」と述べた。またCAFCは「第112条6項を適用することは通常、クレーム作成者に任された選択であるため、分析の第1ステップで、クレーム言語に「means」という用語が含まれている場合、クレーム限定は第112条6項の対象であると推定する。その逆も同様である。「means」という用語が使われていない場合、クレーム限定はmeans-plus-function形式で作成されないと想定するが、この推定は反証可能であることは明らかである…我々は「本質的な質問は、単に「means」という言葉がないことだけでなく、クレームの言葉が構造の名前として十分に明確な意味を持っていると当業者によって理解されているかどうか」を強調している。CAFCは、本件で問題になっている用語を個別に分析した。

 「Code」/ 「Application限定

CAFCは、「地方裁判所は、「means」が限定に含まれていないため、第112条6項は適用されない」という正しい推定から始めたが、地方裁判所がTarget社が推定に反証したと判断したことに間違いがあったとDyfan社に同意した。 そしてCAFCは「この推定を克服するために、Target社は、証拠の優越(preponderance of evidence – 民事では証明度51%以上) によって、当業者がクレーム全体を考慮し構造を暗示する「code」/「application」の限定を理解できなかったことを示さなければいけない。手続き上の観点から、この推定は、推定に異議を唱える当事者が「クレーム用語は明確な構造を十分に述べていないと思っている」ことを示すことにより反証する証拠を提出する責任を課する…しかし、当業者が「code」/「application」の限定をどのように理解したかに関する重要な証拠(Target社の専門家であるGoldberg博士からの反証されていないデポジション証言)を無視することにより、地方裁判所は誤りを犯した。Goldberg博士は、ここでの「application」は、当業者が特定の構造として理解したであろう「専門用語」であると証言した。具体的に、Goldberg博士は、「application」という用語は「ユーザーに何らかのサービスを提供することを目的としたコンピュータプログラム」を意味すると一般的に理解されており、開発者は、関連する時点で、特定のサービスと機能を実行するために既存の「既成のソフトウェア」を選択することができた。さらに、Goldberg博士は、当業者は、「code」という単語を、その操作を説明する言語と組み合わせると、ここでは構造を意味することを理解していると証言した…この証言はどれも反証されていない。したがって、Goldberg博士の証言は、地方裁判所の主張とは反対に、クレーム限定が「純粋に機能的な言語」ではないことを示している。それどころか、Goldberg博士の反証されていない証言は、ここでの「code」/「application」の限定が、当業者に構造のクラスを暗示していることを示している…機械技術とは異なり、ソフトウェアコードとアプリケーションの特定の構造は、その機能によって部分的に定義され、ここで問題になっているようなソフトウェアの限定が十分な構造を示しているかを判断する際に、最初の「code」または「application」の用語を超えて、機能的用語に目を向け、当業者がクレームの限定を全体として十分に明確な構造を暗示を理解していたかを確認する」と述べ、「「code」/「application」限定は、当業者に十分に明確な構造を暗示していたため、means-plus-function形式で記述されていなかった」と判断した。

“System” 限定

次に、CAFCは、「「means」という言葉がない場合、Target社は、wherein条の「system」限定が証拠の優越により十分で明確な構造を述べていないと実証する責任があるが、Target社はこの責任を満たしていない…本件では、クレーム言語自体が、指定された構造を含むように「システム」を定義している…上記の理由により、「system」限定は、当業者に十分に明確な構造を暗示しているため、means-plus-function形式で記述されていない」と判断した。上記の「code/「application」限定と同様、CAFCは「system」限定の第2ステップ分析を行う必要はなかった。

CAFCは「本件のクレームは明確性で模範ではないことを認識しているが、不十分なクレームのドラフトは、たとえ裁判所が「means」という言葉がないと判断しても、そのクレームが第112条6項を適用しないという推定を回避することを許可しない。また、裁判所はその推定が克服されたかどうかを評価する義務から解放できない」と述べた。CAFCは、地方裁判所の無効判決を覆した。