はじめに

弊所ホームページの中でも長期にわたって比較的アクセス数が多いのが、パテントエージェント試験の受験体験記(過去記事1過去記事2)です。日本語での情報が少ないのは確かですが、それよりもむしろ外国人としてパテントエージェント試験を受験する条件や必要書類に関する情報が(英語でも)乏しいため、弊所ホームページに行き着くのではないかと思われます。弊所ではこれまでに3名の日本人弁理士がエージェント試験に合格しており、また、サンフランシスコ・ベイエリア在住の複数の日本人の受験相談にも乗っておりますので、そうした経験を、所内の備忘録も兼ねて、まとめておきたいと思います。

パテントエージェント試験とは

便宜上、ここでは「パテントエージェント試験」としておりますが、正式には「Examination for Registration to Practice in Patent Cases before the United States Patent and Trademark Office」です。一般的にはPatent Bar Examと呼ばれることが多いです。USPTOに対して代理人として手続を行うためには、原則としてこの試験に合格した上で、USPTOにPractitionerとして登録をしなければなりません。例外として、USPTOの審査官を4年以上経験していれば試験が免除となります。代理人として扱える法域は35 U.S.C.であり、この中にはUtility Patent(日本の特許法相当)、Design Patent(日本の意匠法相当)、Plant Patent(日本の種苗法相当)が含まれます。日本の弁理士と異なるのは、Patent Bar Examに合格しただけでは商標が扱えない点です。商標については、全米50州のどこかの州の弁護士資格をもっていれば扱うことができます。商標代理人になるための特別な試験はありません。
Patent Bar Examに合格し、USPTOに登録すればPatent Agentとなり、米国のどこかの州の弁護士会にも登録していればPatent Attorneyとなります。つまり、Patent Attorneyは弁護士資格とエージェント資格の2つを持っていることになり、特許・意匠・商標の全ての出願代理をすることができます。現在、約12,000人のパテントエージェントと約36,000人のパテントアトーニーがUSPTOに登録されています。
試験に関する公式情報は、USPTOのOED(Office of Enrollment and Discipline)が要項を公表しておりますので、そちらをご確認ください。

試験概要

PCを使った多肢選択式(五択)で、午前3時間、午後3時間で各50問合計100問に解答します。TOEIC等と同じように、うち10問は次回以降の試験の候補問題(正答率を調べて試験問題として適切かを判断するため)であり、採点の対象外となります。残り90問のうちの70%以上に正解すれば合格です。
試験はPrometricという試験センター(全米各地にあり)で随時行われております。試験に不合格であった場合には、30日間の待機期間を空けて再受験が可能です。したがって、センターの空き状況次第ですが、理論上は年に12回受験可能です。
試験終了と同時に採点がされ、その場で合否が判明します。但し、不適切な問題があった等により採点調整が入ったり、不正行為が判明したりして、事後的に合否が覆る場合も稀にあるようです。
試験実績はUSPTOから公表されております。かつてはかなり合格率の高い時期もあったようですが、2013年以降は40%台に留まっております。これは、アメリカの資格試験の中でも低い方になります(参考:CPAは約50%、司法試験(Bar Exam)で最も難関とされるカリフォルニア州で約40%、州によっては約80%)。受験者からも難しいという話を聞きますが、受験者のほとんどは実務未経験のロースチューデントやエンジニアであり、ロースクールで法律を学んでから受験する司法試験と同列には比較できないと思います。一般的にPatent Bar受験対策スクールで言われている必要勉強時間は300時間です。

費用

出願料が$160、受験料が$210、Prometric設備使用料が$173です。受験料と設備使用料は試験毎に支払いが必要です。

受験資格

(1)国籍・ビザ要件
アメリカ国籍所有者、アメリカ永住権所有者、アメリカに居住しており、かつ、アメリカで就労可能なビザを所有している外国人となります。居住及びビザ条件がある点で、日本人にとっては試験よりもこちらをクリアーする方が難関となります。また、ビザ申請時の就労業務の範囲に、USPTOに対して特許出願手続を行う(代理人、インハウス、又はトレーニーとして)ことが含まれている必要があります。このことは、受験要項に明記されております(Qualifying documentation would show that the USCIS has authorized the applicant to be employed or trained in the capacity of representing patent applicants before the USPTO by preparing and prosecuting their patent applications)。したがって、エンジニアやセールスとして就労するためにビザが発行されている場合には受験資格がありません。雇用主が「業務上、USPTOへの手続を行うことが必要になった」というサポートレターを発行すればよい、という説もありますが、その場合には本来は就労許可を取り直す必要があるので、USPTOの方はOKでも、USCIS(移民局)側で問題が生ずるのではないかという話もあります。したがって、ビザ取得又は更新のタイミングで、上記に対応するような一文(例えば、The beneficiary will represent patent applications before the USPTO (“United States Patent and Trademark Office”) by preparing and processing the patent applications upon obtaining the certificate to serve as a patent agent.)を予定業務範囲に入れておくのが安全と思われます。明文の規定はありませんが、合格後に登録することを前提としておりますので、ビザの有効期限が6ヶ月未満の場合には受験許可が下りないようですので、Jビザで滞在が短期の場合には早めに願書を提出した方がいいです。
なお、一部の配偶者ビザ(Lビザ、Eビザの配偶者)は米国で就労可能であり、かつ、雇用主・職種が限定されておりませんので、こうした制約なく受験資格を得られます。
(2)学歴要件
(2-1)カテゴリーA
以下のいずれかの分野の学士号(米国外の大学でも可)を有していること。
Biology、Biochemistry、Botany、Computer Science、Electronics Technology、Food Technology、General Chemistry、Marine Technology、Microbiology、Molecular Biology、Organic Chemistry、Pharmacology、Physics、Textile Technology、Aeronautical Engineering、Agricultural Engineering、Biomedical Engineering、Ceramic Engineering、Chemical Engineering、Civil Engineering、Computer Engineering、Electrical Engineering、Electrochemical Engineering、Engineering Physics、General Engineering、Geological Engineering、Industrial Engineering、Mechanical Engineering、Metallurgical Engineering、Mining Engineering、Nuclear Engineering、Petroleum Engineering
理系の学位なら何でもいいという訳ではなく、例えば医学部、理学部数学科、理学部理学科ではカテゴリーAの受験資格は得られません。また、日本の大学では、組織改編等により学科名が複雑になる傾向があり、そのまま訳したのでは上記のいずれにも当てはまらない場合もあるので要注意です。
(2-2)カテゴリーB
カテゴリーAに該当する学位は持っていないが、大学・大学院において所定の分野において一定数以上の単位を取得していれば、審査により受験資格が得られる場合があります。例えば、物理学関連を24単位以上、化学関連を30単位以上、物理学もしくは化学を8単位以上と生物学を24単位以上、または物理学もしくは化学を8単位以上とその他工学を32単位以上、のいずれかが該当します。詳細はOEDの要項を参照して下さい。日本の理学部理学科卒で、単位取得一覧を提出してカテゴリーBで受験資格を得た方や、アメリカの文系学部卒で、その後にオンラインでコンピュータサイエンスの単位を得てカテゴリーBで受験資格を得た方がいらっしゃいます。

出願手続

受験資格を証明する書類、願書、受験料をUSPTOに提出します。
受験資格を証明する書類について、アメリカ国籍又は永住権保有者は不要です。就労ビザで受験される方は、ビザ取得のために提出した書類一式を提出することになっております。但し、ページ数が膨大になることもあり、また、本人が受験資格を有しているかを審査するための資料として提出するので、ビザスポンサーとなる企業の財務状況を示す資料等の附属書は提出しなくてもよいと思います(弊所では提出しておりませんが、受験許可は問題なく下りております)。さらにビザのコピー、I-94(出入国記録)のコピーです。就労ビザで受験される場合、Limited Recognitionとして期限付で登録がされますが、その有効期限が滞在許可期限までとなるためI-94の提出が求められます。なお、Eビザのようにビザ有効期限(5年)よりもI-94(入国毎に2年)で認められる滞在期限の方が短い場合もありますが、登録有効期限が近づいた時点で最新のI-94を提出すれば期限の更新は可能です。
学位の証明は、卒業大学から英文で発行された卒業証明書と成績証明書となります。カテゴリーBで受験される方は、単位を取得された大学等から発行された英文の成績証明書(transcript)を提出します。
願書は、USPTOのOEDが発行する要項に付いています。具体的な記入方法は要項に書かれております。特許出願を代理されている方であれば難しくは無いと思います。
受験料はチェック又はクレジットカードでの支払いとなります。出願料と受験料の合計額を支払います。Prometric設備使用料は、受験許可が下りた後に受験日を予約する際に支払います。クレジットカード払いの場合には、所定のフォームに必要事項を記入し、署名したものを同封します。何らかの理由で受験が不許可となった場合、受験料のみが返却されます。
上記の書類にカバーレター(任意ですが、あった方がいいと思います)を付け、OEDに郵送します。なお、いつから始まったのか不明ですが、オンラインによる願書提出も可能になっていました(https://oedci.uspto.gov/OEDCI/practitionerhome.jsp)。

審査

USPTOのホームページでは、通常14営業日で審査がされることになっていますが、就労ビザでの受験者や米国外の大学卒の場合には、通常よりも審査に時間がかかる傾向があります。4週間待っても受験許可又は不許可の通知が来ない場合にはOEDに問い合わせをするように、となっております。弊所実績では、永住権保有者で10営業日、就労ビザ保有者で4~6週間です。

受験日予約

USPTOの受験許可には受験番号が記載されております。これを使ってPrometricの予約サイトから予約を行います。受験希望地を選択すれば、その周辺の試験センターの一覧が表示されます。弊所の場合、最も近いセンターが車で5分、車で1時間圏内に他に3つのセンターがあります。希望するセンターの横のAvailabilityをクリックすれば予約可能な日時が表示されます。前述のように、同じセンターで複数の試験が行われるので意外に空きが少ないです。受験許可後3ヶ月以内に初回の受験を行う必要があるので、空きがない場合には周辺のセンターをチェックしましょう。また、予約がキャンセルされて空きが出る場合もありますので、希望の場所・希望の日での予約が取れなくても、毎日空き状況を確認していれば希望地で空きが出る場合もあります。Jビザ等で帰国日が決まっており、それまでに空きが見つからない場合には、居住地周辺でなくても受験は可能ですので、他州まで探してみることも考慮に入れた方がいいです。

試験当日

試験センターに到着すると、入室前にIDとセキュリティチェックがあります。空港のセキュリティ並です。パスポートがアメリカの運転免許証を持参しましょう。室内に持ち込めるのはIDのみです。携帯電話を含む私物は、控室にある鍵付きロッカーに置きます。水筒等の持ち込みもできません。入室後、鉛筆とメモ用紙が渡されます。係員から受験用PCの説明がされ、準備が整ったことを確認したら、テストの開始となります。セキュリティチェックが混んでおり、受験開始予定時間を過ぎたとしても、実際にPCで試験をスタートしてから3時間のカウントが始まりますので、焦る必要はありません。PC上に残り時間が表示されるので、時計も必要ありません。途中でトイレに行くことはできますが、係員に告げて退室し、再入室前にIDとセキュリティチェックを受ける必要があるので、かなりの時間ロスとなります。
試験時間は3時間ですが、その前に終了させることもできます。午前と午後の間には1時間の休憩がありますが、試験終了と同時にカウントダウンが始まります。午後の開始時間に遅れた場合には、自動的に午後の部の3時間のタイマーがスタートします。1時間より前に戻ってきて、試験を早めにスタートさせることもできます。
1時間の昼休みというのは短いので、事前に試験センターの周辺をGoogle Map等で確認しておき、昼食を取れる場所を確認しておきましょう。すぐ近くにファーストフード店があれば、そこを使ってもいいですし、なければサンドイッチ等を持参するのがよいと思います。
午後の部が終了すると、テストセンターに関する簡単なアンケートに答えさせられ、それが終了すると採点結果が表示されます。70%以上なら合格で、退出時に係員から結果をプリントアウトされたものを渡されます(仮の合格証)。
その後1~2週間で、USPTOから正式な合格通知と登録に必要な書類が郵送されてきます。