Ⅰ.マリオ(任天堂ゲーム)がコインを取る時の効果音

任天堂のゲームにおけるマリオがコインを取る時の効果音の商標出願(商願2016-014590が、2018年5月15日に出願人の意思により取り下げになりました。 [ 出願細項目記事 査定種別:(査定無し) 最終処分(取下) 最終処分日(平30.5.24)] 審査記録によると、審査官は「2秒程度の短い音であることからすると、単にゲーム内の効果音として認識されるというべき」と述べ、使用による識別力についても「(CMでの使用は)単に映像の開始又は終了を需要者に注意喚起したりする音、または単なる映像の効果音として認識されやすいというべき」という判断です[1]。日本においても、このような新しいタイプの商標はブランドメッセージの発信や模倣品対策で注目されており、多くの企業が出願しています。なお、該商標出願については法的な観点ではなく、“音声ファイル”と“楽譜”を参酌し、音楽的な観点で見てみます。

出所(楽譜):特許庁J-PlatPat商標照会より抜粋して加工 (※色文字部分は追記しています)

(※楽譜をクリックすると拡大できます)

※楽譜の解説(音楽的な分析)

音声ファイル(J-PlatPatより)を聞くと非常にシンプルなサウンドですが、出願経過の楽譜を参照する限りでは、音楽の専門家が厳密に採譜[2]していることが読み取れます(「音符・休符」、「音部記号」、「テンポ及び拍子記号」等)。

具体的には…….楽器はシンセサイザーを選択していることから、様々な音色を想定していることがわかります。また、アーティキュレーション[3](articulation)もしっかり記譜されており、テンポ180(Beats Per Minute)の速さにおいて、16音符表記のB(イタリア音名でいう[ シ ])と、タイ[4](tie)で繋がる付点8分音符と2分音符表記のE(イタリア音名でいう[ ミ ])の音が、3拍かけてforte (強く)からpianississimo (ごくごく弱く)までdiminuendo(だんだん弱く)していく楽譜となっています。

なお、簡単な表記になるように付点2分の装飾音符だけで表記しても良さそうですが、上記楽譜の方がリズムが明確になり、さらに音が減衰していくところまで忠実に再現された音楽的な楽譜といえます。音の商標はシンプルなフレーズが多いため、単に音をそのまま機械的に採譜するのではなく、今回の事例のように工夫して出来る限り音楽的な楽譜にすることが好ましいといえます。

また、様々な音商標の出願の楽譜を参照してみると、企業によって楽譜のクオリティにはバラつきがあるように思えます。採譜は、企業側自身が行う又は企業が特許事務所側や専門業者に委託するケースが多いようです。

※この楽譜はイメージです。

Ⅱ.米国における音の商標について

米国において「音の商標」はどのように取り扱われているのか、以下簡単に説明します[5]

1.制度の導入

新しいタイプの商標については、一部コモンロー(判例法)において保護されていましたが、1946年に制定された現行連邦商標法の下においては、1950年に音の商標が初めて登録されました。有名な事例として、アップル社のPC 製品である「Mac」を起動した時に流れる特徴的な電子和音 (米国登録第4257783号)やインテル社のCM 音(欧州登録第4610986 号)、米ハリウッドの映画会社メトロ・ゴールドウィン・メイヤー (MGM)のライオンが吠えるオープニングロゴ(米国登録第1395550号)等も登録されています[6]

2.出願のシステム対応及び公示方法

新しいタイプの商標の電子出願が可能であり、音声ファイルの添付も可能となっています。公報に関しては、PDF版及びHTML版にて電子公報を発行します。音といった視覚で認識できない商標については、商標の説明文(description of mark)を公報に記載することで対応しています。音声ファイル[7]は、USPTOのウェブサイトの出願書類にアクセスすることにより、一般に聴くことが可能となっています。

3.商標の特定方法

願書の記載において、音の商標については、商標見本への記載が困難であるため、商標見本欄には、「No drawing」と記載し、説明文を詳細に記載して特定します。音の商標の出願においては、商標の説明文と音声ファイルを求めていますが、楽譜の提出も求めています。なお、商標の説明文と、音声ファイルの内容が異なる場合には、審査官の判断により、商標の説明文の補正がなされることがあります。

4.識別力の判断

音の商標は、本来的に識別力を有する場合があるので、通常の商標と同じ扱いで識別力を判断します。なお、ありふれた音(commonplace)は、使用による識別力を証明しなければなりません。通常の用途で音を発するような商品の音(例えば、目覚まし時計、アラーム又は信号音を出す機器、電話、及び個人用セキュリティアラーム)については、使用による識別力を獲得した場合に限り登録できるものとしています(Trademark Manual of Examining Procedure [以下、審査マニュアルTMEP] 1202.15 6th 米国特許商標庁)。

5.類否の判断

他人の商標との抵触については、通常商標と同様に、混同を生ずるおそれ(likelihood of confusion)の有無によって判断します。

この判断については、以下の点が考慮されます。

1.標章の全体の外観、称呼、観念、商業的印象の類否

2.商品・サービスの関連性

3.商取引経路の類否

4.対象となる取引者の状況

5.類似する商品に類似する標章の使用する数や特徴

6.出願人と先行商標権者との有効な合意

(審査マニュアルTMEP1207.01 Likelihood of Confusion米国特許商標庁)

6.審査体制

音の商標の審査においては、音楽に精通した審査官がいるので、その審査官が審査を担当します。

 

Ⅲ.日本における音の商標の活用

日本における音の商標の説明は省略させて頂きますが、日本においてもマーケティング戦略の手段としての活用が期待されており、商標の権利化を図る特許・法律事務所と、マーケティング戦略を立案するコンサルティング会社が連携することが重要との見解があります[8]

—以下、参考文献等—

(※脚注番号をクリックすると、指定場所に自動で移動できます。)

[1] 任天堂がマリオコインの音商標権取得を断念( yahooニュース )

https://news.yahoo.co.jp/byline/kuriharakiyoshi/20180820-00093779/ 2018/09/11参照

[2] 音楽理論用語。音楽の演奏を聞いて、それを楽譜に書取ることで、五線譜に記譜する方法が最も一般的です。

[3] 音の形を整え、音と音のつながりに様々な強弱や表情をつけることで旋律などを区分すること。フレーズより短い単位で使われることが多いです。強弱法、スラー、スタッカート、レガートなどの記号やそれによる表現のことを指すこともあります。

[4] 継時的に連続する2つの同じ高さの音符を孤線によって結ぶことによって、ひとつの音符のようにつなげて演奏することを表す。

[5] 特許庁「新しいタイプの商標に関する海外主要国における実態について」資料4-2から一部引用

[6] 日経BP 知財Awareness/2015 年2 月19 日掲載

[7] 音声ファイルは、5MB以内のWAV、WMV、MP3、MPEG、AVIの形式が求められます。

[8] 平田祥一朗「注目される新しいタイプの商標」三井物産戦略研究所 知的財産室