―非特許文献データベースにおける先行技術発見の重要性―

出所: The Sunken Yacht  © 1949 Walt Disney Corporation.

Ⅰ.はじめに

先行技術文献には、公開特許公報等の特許文献の他、学術論文、学術雑誌、あるいはインターネット上に公開されている文献等のいわゆる非特許文献があります。本記事では、ディズニーアニメのキャラクターで有名な「ドナルド・ダック[1]」の架空の物語が、有効な先行技術文献になった事例を紹介します。

 

Ⅱ. 該事例の背景

1964年9月14日、Kuwaitの港で貨物船が沈没した事故に遡ります。この事故処理では、船舶を損傷すると水質汚染の影響があるため、クレーンを使用せずに、海底から船舶を迅速に取り除くことが必要でした。そんな中、デンマークの発明者であるKarl Kroyerは、船舶を上昇させる技術として画期的なアイデアを思い付きました。具体的には、膨張させることができるプラスチックボール2700万個を船舶の中に充填し、 沈没した船舶を浮遊物で満たして持ち上げるというものです。

※この写真はイメージです

Ⅲ. 特許出願~非特許文献の存在

Karl Kroyerは、該発明を特許出願しました(ex.GB1070600号、DE第1247893号)。この出願の特許請求の範囲には、「浮遊体(1)を、海難救助船(2)からのチューブ(3)を介して沈没船(4)に挿入する」、と記載されています。なお、Karl Kroyerはオランダ特許庁にも該発明の特許出願(NL 6514306)を行いましたが、不運にも新規性を否定し得る先行技術文献が発見されました。この先行技術として引用された文献は、ディズニーアニメのキャラクターで有名なドナルド・ダックの漫画でした[2]

出所: NL 6514306 .Karl Kroyer Patent Figure 1を加工

 

この漫画を参照すると、ドナルド・ダック達[3]が、海底に沈む船舶の下部からチューブを介して大量のピンポン球を充填し、船舶を海面まで持ち上げているシーンが描かれています。

出所: The Sunken Yacht  © 1949 Walt Disney Corporation.
浮力体であるピンポン球を、チューブを介して船舶に供給しているドナルド・ダックのこのエピソードによって、該発明の新規性が否定されました。

 

Ⅲ. 検討

この事例から学べることは、審査官が拒絶理由通知において出願を拒絶する根拠として示す文献に、意外なものが引用される可能性があるということです。本件の場合、ディズニーアニメのキャラクターで有名な「ドナルド・ダック 」の架空の物語が有効な先行技術文献になりました。このことから、先行技術調査において、広範な非特許文献の検索を行うことが必要だとわかります[4]

なお、非特許文献の検索は精緻な技術分類が整備されておらず、目的の資料を見つけ出すことが非常に困難です。より正確で効率的な検索のために、非特許文献調査では一つのデータベースのみを用いるのではなく、複数のデータベースを使い分ける必要があります[5]

 

Ⅳ. その他

上記事例の他、AppleとSamsungのスマートフォンのデザイン特許(意匠特許権)侵害を巡る訴訟の一部において、Samsungは、1968年の映画『2001年宇宙の旅[6]』で登場するタブレット端末を反論として引用しています。このように、過去の映画やテレビ番組から有効なソースが見つかる場合もあります[7]

 

Ⅴ. 非特許文献データベース

非特許文献データベースは数多くありますが、代表例として“Google Scholar[8]”があります。これは、Google検索のうち検索対象を非特許文献、書籍、特許公報に絞ったものです。

出所:Google Scholar[9]

Ⅵ. おわりに

今回のように意外な文献が見つかる可能性もありますので、データベース検索はもちろんですが、好奇心を持って日常から様々なコンテンツに触れることも重要だと思います。

—以下、参考文献等—

(※脚注番号をクリックすると、指定場所に自動で移動できます。)

[1] (英: Donald Fauntleroy Duck、通称:ドナルドダック)は、アヒルをモチーフにしたディズニーアニメのキャラクターです。釣りとゴルフを好む。得意な楽器はマラカスです。

[2] Ius mentis(The “Donald Duck as prior art” case): http://www.iusmentis.com/patents/priorart/donaldduck/  2018年11月1日参照

[3] ドナルドダックの甥(三つ子)は、ヒューイ・デューイ・ルーイ (Huey, Dewey and Louie)といいます。

[4] Abhinav Kumar(Linkedin)://www.linkedin.com/pulse/donald-duck-prior-art-case-importance-finding-non-patent-kumar/ 2018年11月1日参照

[5] 角田朗「非特許文献調査について」知財管理Vol. 67 No. 6 2017  824頁

[6]アーサー・C・クラークとスタンリー・キューブリックのアイデアをまとめたストーリーに基いて製作された、SF映画およびSF小説です。映画版はキューブリックが監督・脚本を担当し、1968年4月6日にアメリカで公開されました。

[7] C-net https://japan.cnet.com/article/35006428/ 2018年11月6日参照

[8] Google Scholar  https://scholar.google.co.jp/ 2018年11月6日参照

[9] 前掲(8)